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子宮内の悪玉菌 → 炎症反応 → 赤ちゃんに影響 “善玉菌”で早産防げ 細菌環境整える研究進む

/掲載日:2020年06月06日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:13ページ/

赤ちゃんが母親のおなかから生まれてくるのが早すぎると、肺や神経が十分に成長せずに健康に影響することがある。なぜ早産が起きるのかについては謎が多かったが、最近になって“悪玉菌”の感染で起きる炎症反応が子宮内の赤ちゃんに影響を及ぼしていることが分かってきた。それなら“善玉菌”がすむ環境を整えることで早産を防ぐことができるのではないか。子宮内の細菌環境に着目して健康な次世代を育む新たな研究が始まっている。

 「子宮の中は以前考えられてきたような無菌状態ではない。胎児は善玉菌による自然の“バリアー”で外から守られている」。こう話すのは大阪母子医療センター研究所免疫部門の柳原格部長(周産期感染症)だ。

 善玉菌の正体は棒のような形をした乳酸菌「ラクトバチルス」だ。腸内や口の中、皮膚の表面などにすむ常在菌で、私たちと共生して多くの利益をもたらす。

 子宮内の細菌は「子宮内フローラ」と呼ばれる。乳酸菌は乳酸をつくり出して、外から来た細菌が増殖しにくい環境を保つ役目を果たしている。

 ▽ウレアプラズマ

 乳酸菌は母親から赤ちゃんにも受け継がれる。新生児の腸内細菌を調べると、母親の子宮や産道にいる細菌と似通っていた。生まれる際に母親から“贈り物”として受け取るらしい。

 ところが子宮内フローラのバランスが崩れて乳酸菌の勢いが弱まり、代わりに悪玉菌が増えると「細菌性膣ちつ症」と呼ばれる状態になる。

 悪玉菌の代表格が「ウレアプラズマ」という微小な細菌だ。健康な人からも一定の割合で検出される。ほとんど病原性を示さないため、気付かずに性行為などで人にうつしてしまうことがある。

 ウレアプラズマは羊水に含まれる赤ちゃんのおしっこ成分が大好物だ。妊娠中に症状が進むと胎盤や羊水に入り込んで増殖する。


「ウレアプラズマ」感染による早産への影響を研究する柳原格・大阪母子医療センター研究所部長

 ▽年5万人超

 柳原さんらのチームは早産や流産を経験した母親約160人を調査。すると4割がウレアプラズマに感染していることが判明した。

 調べると、ウレアプラズマの表面には他の細菌にないタンパク質があった。これが過剰な免疫反応の原因になることがマウスの実験で分かった。柳原さんは「細菌感染によって赤ちゃんを包む羊膜に炎症が起き、破水や陣痛を引き起こして早産や流産を招く」とみている。

 柳原さんはウレアプラズマの“弱点”を調べることで、炎症反応を抑えることができるのではないかとみている。腸内環境を整えるように子宮内の細菌環境を薬などで整え、ウレアプラズマの増殖を抑えるのが目標だ。

 日本の周産期医療は世界でもトップレベルだが、早産で生まれる赤ちゃんは年5万人を超える。柳原さんは「胎児を守る自然のバリアーを生かしながら、早期に感染を見つけて治療し、早産の予防に役立てたい」と話す。


子宮内にもいる“善玉菌”の乳酸菌(東亜薬品工業提供

 


子宮内に感染する“悪玉菌”の「ウレアプラズマ」(柳原格・大阪母子医療センター研究所部長提供


メモ

 人の腸や口、皮膚など体のあらゆる場所にはさまざまな種類の細菌がすみ着いている。数百種類以上、100兆個を超す腸内細菌は人と共生関係にあり、免疫機能や病気の発症など多くの生命現象と関係している。ただ普段は無害な常在菌でも、高齢化や病気によって免疫が低下すると「日和見感染」を起こして健康を脅かす原因になる。一人一人で異なる腸内細菌を網羅的に調べる研究は最近になって活発化。背景には、遺伝子を高速で解析できる「次世代シーケンサー」の開発がある。

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