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岡山大・松村圭一郎准教授 生きる力 付ける学びを 「これからの大学」出版

/掲載日:2020年03月13日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:4ページ/

 岡山大文学部の松村圭一郎准教授(44)=文化人類学=が約2年ぶりとなる単著「これからの大学」(春秋社、2090円)を出版した。教育や入試の在り方などを巡る大学改革が進む中、大学本来の「学び」はどうあるべきか―を掘り下げた文化人類学者の教育論。現役の学生や高校生だけでなく、学びを求めるあらゆる世代に向けた現代版“学問のすゝめ”だ。

 文化人類学は、自分の居場所(ホーム)と調査地(フィールド)を往復する中で生じる意識のずれや違和感を手掛かりに、人間社会を考える学問。本書は大学での学びについて、学生と大学教員の間に「ずれ」があると指摘する。

 大学に入るまでの受験勉強で唯一の正答を求められてきた学生に対し、教員は「問い」には複数の答えと道筋があり、さまざまな情報の中から自分にとっての正解を探るプロセスが大切、と説く。戸惑う学生は少なくないが、「社会に出ればどんな壁に直面するか分からない。大学の学びは、不透明な時代を生き抜き、自分の力で新たな状況に対応していく知恵、いわば生きる力を付けるためにある」と訴える。

 英会話など特定のスキル習得を求め、就職率向上に力を入れるといった近年の大学改革の風潮には、「誰のための改革なのか」と疑問を呈する。大学の現場と懸け離れた「空中戦」のような議論や浮ついたコンセプトではなく、「学生の人生で何が糧になるのか、考え続けることからしかこれからの大学の姿は描けない」と主張する。

 執筆のきっかけとなったのは、毎日出版文化賞特別賞を受けた前著「うしろめたさの人類学」(ミシマ社刊)と同様に、2011年の東日本大震災だ。長年続けているエチオピアでのフィールドワークを基に社会とのつながりを再考した前著に続き、ホームである大学という「持ち場」では何ができるか、自問を重ねたという。

 「学問という深い森をさまよいながら、行く先も分からない知的な冒険を楽しむ。それが大学の深みであり、社会にとっても大きな意義を持つはずだ」

 「中央公論」編集長などを歴任し、コピーライターの糸井重里さんが運営する「ほぼ日の学校」学校長を務める編集者・河野通和さん=岡山市出身=との対談も収録。装画は倉敷芸術科学大講師で現代美術家の川上幸之介さんが手掛けた。(萩原聡)


 まつむら・けいいちろう 2005年京都大大学院人間・環境学研究科博士課程修了。同大助教、立教大社会学部准教授を経て15年から現職。岡山市内をはじめ、各地のトークイベントや講座で講師を務める。主な著書に「所有と分配の人類学」など。熊本市出身。

松村圭一郎著「これからの大学」(表示不可)

松村圭一郎准教授

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