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コロナに揺らぐ日常再考 (6) 切り替える 息苦しい公私の連続

掲載日:2020年08月30日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:12ページ/

 臨時休校で家にいる小学生の息子が、テレビアニメに夢中になっていた。「今がチャンス」なのだが、なぜか仕事の電話がかけられない。公の場では物おじしない私だが、元々は気弱な性格。職場で、趣味の集まりで、友人との会食で…状況により少しずつ違うが、どれも自分だ。だが緊急事態宣言が出ると、「40代の母親」以外になる機会を失い、息苦しかった。

 「当然のことですよ」と教えてくれたのは、大正大准教授(男性学)の田中俊之さん。「人間は社会的な生き物で、他者との関係性の中に自分がある。コロナウイルスにより関係性が縮小する閉塞へいそく感の中で、自分がどうなるか不安な人は多いはずです」と指摘する。

 実際、似たような悩みを抱える人は少なくない。在宅勤務が推奨されても、毎日通勤する中高年の男性。家で仕事をする夫が個室にこもり、昼食だけを要求すると嘆く女性も。「特に男性は、いくらイクメンともてはやされようとも『大人の男は会社に行って仕事をするもの』という固定観念があり、コロナ危機の中でも、働く女性のように劇的には行動を変えない」

 田中さん自身も落ち着かない日々を過ごした。「自宅でオンライン講義をしていて、仕事をしている自分を家族に見られるのは居心地が悪かった」と苦笑する。仕事の合間に食事を作り、子どもを散歩に連れ出すことも少なくない。「公私が絶え間なく連続する中で働くのはきつい。でも、多くの女性がずっとやってきたことですよね」

 この感覚は確かに、育児をしながら働く身にはなじみ深い。時計をにらみつつ仕事を進め、時間が来ればいや応なく職場を飛び出す。急いで買い物を終え、子どもが待つ保育園へ―。公私をせわしなく行き来してきた。

 その点、在宅勤務なら、公私をうまく切り替えることで家族一緒に過ごす時間が増え、仕事が人生の全てではないことも分かる。一方で、暮らしと社会の関わりも実感でき、自分らしい働き方に結びつくかもしれない。

 だが田中さんは楽観はしていない。「今回の緊急事態は、生き方を問い直し、家事や育児の分担を見直す好機だった。でも宣言解除後の社会では、元の生活に戻す力が粛々と働いている。価値観を変えるのはそれほど難しいことなのですね」

 (中井陽共同通信記者)

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