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「性的虐待」初の児相実態調査 被害潜在化 介入難しく 心の傷 長期的支援必要

/掲載日:2020年10月18日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:35ページ/

 厚生労働省が、児童虐待の中でも潜在化しやすい性的虐待への対応について、全国の児童相談所を対象とした調査に乗り出した。身体的虐待や育児放棄(ネグレクト)など別件の虐待で介入した職員らが性被害をどう把握し、心に傷を負った子どもたちへの適切な支援につなげるか。現場では多くの課題が横たわる。(1面関連)

やっとの思い

 「人に言えば、お母さんの心の病気がひどくなる」。関東地方の児童相談所で一時保護された女児は、加害者の父親から性的虐待の事実を他言しないようこう言われ続けてきた、と職員に告白した。子どもがやっとの思いで児相に訴えても母親が否定するケースもあり、性被害は虐待の中でも「最も介入が難しい事案」(児相職員)だ。

 行政も対応に本腰を入れ始めた。東京都は「専門的な技術が必要」として2014年度に性的虐待の聞き取りを社会福祉の民間団体に委託した。

 東京都港区で児相設置準備担当部長を務める田崎みどり医師は、子どもは口止めされ何年も被害を言えなかったり、話せても一時保護で家に戻れない不安や自分のせいで家族ばらばらになったなどの自責から話を撤回したりすると話す。「児相をはじめ性虐待に関わる機関は被害を適切に把握するために研修を受け、被害を受けた子どもの特徴を理解して対応する必要がある」と強調する。

米では1割

 神奈川県中央児童相談所が18年に公表した性的虐待に関する調査報告によると、09~16年度に確認した性被害約200件のうち、性別は約9割が女児で、0歳児も含まれていた。当時の職員にアンケートができた約120件を分析すると、初めて被害に遭った平均年齢が9歳だったのに対し、児相受理の平均年齢は13歳だった。5年以上続いた事例もあり、低年齢で被害を受け、そのまま長期化している実態が浮き彫りになった。

 対策が急がれるが、全国の児相が18年度に通告を受理するなどした児童虐待件数約15万件のうち、性的虐待はわずか1・1%。米国では性的虐待が約1割を占める調査結果もあり、専門家からは「実態を表していない」と統計方法などに疑問の声が上がる。きょうだいや母親の交際相手からの加害は、保護者の「ネグレクト」とされ、現状では性的虐待に計上されないためだ。

影響一生続く

 性的虐待を把握した後のケアも課題だ。被害を受けたことで不眠や摂食障害などになり、精神的治療が必要になる子どもは多い。思春期以降の心身に影響を及ぼす「複雑性トラウマ(C―PTSD)」を引き起こす例もあり、中長期の支援が必要になる。15年には最高裁で、40代女性が成人した後に発症したうつ病について幼少期に親族から受けた性的虐待が原因と認定された事例もある。

 だが、児童福祉法で児相の支援は17歳まで。18歳以降の支援は手薄な状態だ。近親者から性虐待を受けた経験を持つ人の自助グループ「SIAb.」代表のけいこさん(52)は「自分が被害に遭った年齢にわが子が差し掛かったことをきっかけに、隠れていた傷が引き出される例も多い」と話し、「被害による後遺症などの影響は一生続く。カウンセリングや治療、当事者同士のつながりなど中長期的な支援が必要」と指摘した。

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