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まちの保健室Soranji ③ 「片づけたのは、部屋だけではなかった」

本当の自分の声を聴く

「外より内だよ。」

この言葉をきっかけに、私は少しずつ自分の内側へ目を向けるようになりました。

「今向き合わなければ、また同じことを繰り返す。本当にどうにかしたい」――そう思い、「本当の自分の声」に耳を傾けることにしたのです。

とはいえ、私は自分と向き合うことが苦手でした。「向き合うって、いったい何をすればいいの?」と、長い間分からずにいたのです。けれど、これまでと同じ行動では何も変わらない。そう考え、苦手なことにも挑戦してみようと決めました。

ある朝、まっ白なノートを前に、私は自分に問いかけました。

「家族のことも、時間も、お金も気にしなくていいとしたら、あなたが本当にしたいことは何?」

出てきた答えは、たった二つでした。

「家族のために、おいしいごはんをつくりたい」

「家でひとり、ダラダラしたい」

旅行やぜいたくではなく、願っていたのは毎日のささやかな時間。それすら自分に許せていなかったことに気づくと、自分がかわいそうになり、涙が出ました。

あなたは最近、「本当はこうしたい」と思いながら、後回しにしていることはありませんか。大きな夢でなくても構いません。まずは紙に書き出してみると、今の自分が大切にしたいことが見えてくるかもしれません。

2500回「これは必要?」と問いかけた

私が望んでいたのは、毎日の暮らしを大切にすること。では、なぜそれができないのだろう。ぼんやり家の中を見渡したとき、モノであふれた部屋が目に入りました。「こどもが増えたから仕方がない」と諦めていたけれど、この環境が時間と心の余裕を奪っているのかもしれない。そう気づき、家じゅうを片づける決意をしました。

方法は、とてもシンプルです。

  1. モノを一つ手に取る。
  2. 「これは、今の私に必要?」と問いかける。
  3. 必要なら残し、必要でなければ感謝して手放す。
  4. 迷ったら、「どうして手放せないのだろう」と、もう一度自分に問う。

 

「高かったから」「まだ使えるから」「もったいないから」。問いを重ねると、モノの奥にある思い込みや執着が見えてきます。そこでさらに、「その思い込みは、これからの私にも必要?」と問いかけ、必要でなければ、それも手放しました。

その回数は2500回以上。家にあるモノと一つひとつ真剣に向き合い、1か月かけて片づけを終えました。すると、整った部屋で、おいしいごはんをつくることも、ひとりでのんびりすることもできるようになりました。最初に書いた二つの願いが、ようやくかなったのです。

全部を一度に片づける必要はありません。まずは引き出し一段、バッグの中、財布の中など、小さな場所から始めてみてください。「捨てるべきか」ではなく、「今の自分に必要か」と考えることがポイントです。

 

モノを選ぶ力が、暮らしの選び方を変えた

片づけを通して、私は何千回も「問いかけて、考えて、決める」という作業をしていました。それを繰り返すうちに、自分に必要なものを自分で選ぶ力が、少しずつ身についていったのです。

すると、モノ以外の選び方にも変化が表れました。なんとなくSNSを見ることが減り、気の乗らない集まりを断れるようになり、「なんとなく」で食べることも少なくなりました。私の場合、片づけを終えた5月から2か月で体重も4キロ減りました。これはあくまで私自身の変化ですが、無意識の習慣を見直すきっかけになったのだと思います。

皆さんの毎日の中にも、「なんとなく続けていること」はありませんか。その時間や習慣は、今の自分に本当に必要でしょうか。モノを選ぶときと同じように、一度立ち止まって問いかけてみると、暮らしの優先順位が見えやすくなります。

変わったのは、私でした

最も大きく変わったのは、心でした。自分に余裕が生まれ、イライラすることが減り、子どもや夫に怒ることも少なくなりました。そして、娘を心から「かわいい」と思い、夫にも「私たちのために働いてくれて、ありがとう」と自然に感謝できるようになったのです。

娘が急にかわいくなったわけでも、夫が急に変わったわけでもありません。変わったのは、私でした。行動が変わり、考え方が変わると、同じ毎日でも見える景色が変わっていきました。

片づけは、単にモノを捨てることではありません。私にとっては、すべての「物」や「事」に片をつけ、「これからの私に本当に必要なものは何か」を選び直す時間でした。モノを手放して部屋に余白ができ、思い込みや執着を手放して心にも余白ができた。そうして私は、自分の人生を自分で選び直し始めたのだと思います。

もし今、時間にも心にも余裕がないと感じているなら、目の前のモノを一つ手に取り、「これは、これからの私に必要?」と問いかけてみてください。その小さな選択が、自分らしい暮らしを取り戻す第一歩になるかもしれません。

そして、お片づけを終えてから1年後。私の人生は、思いもよらない方向へ動き始めました。そう、Soranjiの起業です。片づけをしていた頃の私には、自分が起業するなど想像もできませんでした。けれど、モノと向き合い、自分に問いかけ、選び続けた日々が、次の一歩を踏み出す土台になったのです。

この続きは、また次回お話しします。

 

酒井 美貴(さかい みき)
まちの保健室Soranji 代表/社会福祉士・元養護教諭
岡山市北区で、こどももおとなも安心して立ち寄り、
相談や休息ができる「まちの保健室Soranji」を運営しています。
転勤族としての暮らし、コロナ禍での出産・子育て。
孤独や不安を抱えた自身の経験から、
「同じように悩むお母さんを一人でも減らしたい」
という想いで、この場所をひらきました。
「ここに来てよかった」と思える場所であり続けられるよう、
一人ひとりの気持ちに寄り添っています。
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