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福山市立大弘田准教授 「電車好きな子は賢くなる」 知識分類する力向上 乗車で協調性アップ

/掲載日:2020年03月06日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:15ページ/

 

 男の子が幼児期に夢中になる「電車(鉄道)」。その度合いがすごすぎて、「このまま大人になって大丈夫かな?」と心配する母親も多いようだ。そんな人たちに「安心してください。電車好きの子どもは賢くなりますよ」とアドバイスするのが福山市立大准教授の弘田陽介さん(46)。電車は記憶力だけでなく、知識を系統立てて分類する力、協調性、マナーなどが身につく「絶好の育児素材」と強調する。(土井一義)

 「さほど鉄道好きではなかった」という弘田さんは、中学2年、小学5、2年の3人の男の子がいる。長男、次男が強烈な電車好きで、どちらも0歳からおもちゃの電車で遊び始め、初めて発した言葉は、それぞれ「電車」と「JR」。専門はドイツ教育哲学だったが、電車を愛する子どもの姿を見るうち、研究対象になっていったという。

認知スキル

 「電車好き」で身につく子どもの発達に役立つスキルについて、弘田さんはまず「認知スキル」を挙げる。

 一般的に言われるのは記憶力や理解力。中でも覚えた物事を一定のルールに従って分類し、頭の中に整理して保存する「知識の棚」と呼ぶ能力が最も大切だという。

 車両の色、形はもちろん、線路の幅などの規格、走る速度…。たくさんある列車の性能を図鑑や本で見て、それぞれの特徴を認識。情報処理して、頭の中の「棚」に収めていくことで、覚えたことを引き出しやすくなる。

 これは学力とも深く結びつく。「数学の問題を解く時、自分で新しい解法を発見することはそんなにない。問題をパターンに分け、過去に解いた問題を思い出して応用することが多い。『知識の棚』から、必要に応じて取り出す能力を、鉄道好きな子は自然と身につけられる」

 

電車を眺める親子連れ=倉敷市

 

非認知スキル

 もう一つは「非認知スキル」。「やり抜く力」「協調性」「思いやり」「自制心」など、他の人と関わったり、社会の中で自分をコントロールする能力のことだ。

 「鉄道マニア」と言えば、協調性がいまひとつのイメージを持たれがちだが、弘田さんは「社会性も培われる」と断言する。

 例えば、おもちゃの電車で一緒に遊ぶことで親子の愛着関係をつくる。電車を見に行き、同じ対象物を見る「共視」で、他者がどう思うかを感じ取る力が育つ。電車に乗れば、弱者をいたわる、整列して並ぶ、踏切で待つなど、社会的なマナーやルールを学ぶこともできる。

 「認知スキルは子どもだけで勝手に上がるが、非認知スキルは、人との関わりの中で高まっていく。親がうまく促すと吸収の度合いが増す」と助言する。

4歳で分岐

 弘田さんの調査では、電車への興味は0歳から始まり、4歳ごろで、そのまま夢中であり続ける子と、別の物、例えばテレビのヒーロー、スポーツ、ゲームなどに関心が向かう子に分かれる。

 幼児期に認知、非認知のスキルをバランスよく育むことが、今の子どもには特に重要になっているという。「膨大な情報の海にさらされる中では、取捨選択する『知識の棚』が大切。人工知能(AI)時代においては、協調性や社交性の必要性も高まっている」からだ。

 弘田さんは余談として、灘(神戸市)や開成学園(東京)といった高学力で知られる私立中高一貫校にはたいてい、鉄道研究部が存在していることも指摘。「電車好きの子どもを受け入れ、一緒に遊びながら、自信を持って育ててください」


 ひろた・ようすけ 大阪市出身。京都大大学院博士課程修了。2017年から現職。専門は教育哲学、教育史。著書に「電車が好きな子はかしこくなる」(交通新聞社)、「キッズ・ミート・アート 子どもと出会い、すれ違うアート」(ふくろう出版)など。

 

 

弘田陽介福山市立大准教授

 

 

 

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