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独自ネット授業人気 家庭で勉強 塾が展開 受験を応援、興味開発型も

/掲載日:2020年05月08日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:13ページ/

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校などで、家庭で勉強する方法を探す親子も多いだろう。さまざまな教育素材があるインターネット上で、独自の理念でオンライン授業を展開する二つの塾に取材した。

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 「よっしゃー! 数学と恋愛相談を担当する『ほしてぃー』だぜ!」。中学生向け無料オンライン学習塾「ゆめのば」の画面で代表の星野智さん(38)が熱く呼び掛けた。

 「ゆめのば」は2018年、福島、群馬、兵庫各県の塾経営者で友人の3人が設立。教育格差の解消を掲げ、高校受験を目指す受講生に無料で、中学3年間の5科目を分かりやすく講義する。

 設立の契機は、兵庫県明石市で塾を開く星野さんに、伊豆大島で小学校教諭を務める友人が寄せた相談。「教え子が(本土の)高校を受験したがっているが、島では十分な受験勉強ができない」。星野さんの塾でも当時、親の離婚の影響で通えなくなった生徒がいた。

 母子家庭で育ち、経済的な苦労を知る星野さんは一念発起。友人2人と手弁当で「ゆめのば」を立ち上げた。利用者は全国に約7千人。沖縄県が一番多く、東京都、大阪府が続く。希望校に合格した生徒も多いという。

 受講した女子生徒の一人は「画面の中の先生との距離が近く、見るのが楽しかった。(先生を)信じて頑張ることができた」との声を寄せた。オンライン学習はモチベーションの維持が課題といい、「仲間や先生の声掛けが必要不可欠です」と周囲の応援を訴える。

 一方、全国一斉休校を受けて特別授業を動画配信し、4月からオンライン授業を始めたのが「探究学舎」(東京都三鷹市)。既存の受験勉強とは一線を画し、小中学生らの好奇心を育む「興味開発型」授業で人気の塾だ。

 特別授業の初回は、好きなことに熱中して社会貢献した「偉人」として米国の実業家スティーブ・ジョブズの足跡を取り上げた。豊富な画像と巧みな語り口、視聴する生徒からチャットで次々届く感想を織り交ぜた授業は、大きな反響を得た。

 代表の宝槻泰伸さん(38)はオンライン学習に新たな可能性をみる。「学習履歴を蓄積すれば、それぞれの子が探究してきたことや学習スタイル、どんな個性・資質を磨いてきたかが分かる。教師は一人一人にもっと対応できるようになる」。子どもの学びも広がる。

 今春の休校などで、学校に行かずに学ぶ方法を考えた人は多く、その経験が学校を捉え直す契機になるのではないか、と宝槻さんは考える。「将来、学校は午前中に最低限の能力開発だけを担う場所になり、午後に子どもは自分で決めた時間割に沿って、好きな場所で仲間と探究するようになるのではないでしょうか」と期待を込めて話した。

「ゆめのば」代表の星野智さん。「勉強が苦手という子は、勉強方法を間違えていることが多い。動画では最初に勉強方法についても伝えます」


異例の休校 学校再考の契機

 異例の休校で、各地の学校も臨機応変な対応を迫られている。「自宅でのオンライン学習の仕組みを本気で議論してこなかった学校も多いが、今できることをしていかなくては」と促すのは藤川大祐千葉大教授(教育方法学)。千葉大教育学部付属中の校長も務める。

 塾の受験用オンライン学習との違いを、こう指摘する。「例えれば、教育産業のコンテンツは作り込んだテレビ番組。でも学校は、少ないリスナーに向けて語り掛ける、地域の手づくりラジオ番組でいい」。自校の生徒が今、求めるものに応える姿勢が大切という。

 付属中では臨時休校の始まった3月から、毎朝9時に校内専用ホームページに学年別の学習課題や学校のメッセージなどを載せる。「大半の家庭にはスマートフォンなどがあり、1日1回のチェックなら負担は少ない。毎朝発信することで、生活のリズムをつくるのにも役立ちます」。生徒からのメッセージや、作文も公開できるという。

 異例の長期休校で、授業や行事、式典、部活動などの大幅な見直しが必要となる。その中で、学校の役割や価値、在り方も再考される、とみる。

 「学校でしかできない学びは、集団で学ぶこと、皆で協力して一つのものをつくること。今回は、学校の在り方をより本質的に変えるチャンスになるかもしれませんね」

全国一斉休校を受けた特別授業の収録の最後に、カメラに手を振る参加者らと宝槻泰伸さん(前列でマイクを持って立つ男性)=東京都三鷹市の探究学舎

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