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児童虐待とDV被害 情報共有進まず 18年度 児相4割「連携例なし」/支援や介入 見解の相違も

/掲載日:2020年07月27日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:3ページ/

厚生労働省が全国の児童相談所と配偶者暴力相談支援センターに2018年度の連携状況を尋ねた調査で、回答した児相の4割超、センターの3割超が連携した事案はないと報告していたことが26日、分かった。児童虐待の背景には、ドメスティックバイオレンス(DV)が潜むことが多く、専門家からは包括的支援に向けた情報共有が不十分との指摘も出ている。

 東京都目黒区や千葉県野田市の児童虐待死事件を受け、今年4月に施行された改正児童虐待防止法などは、両機関の連携強化を明記。同省は調査結果を踏まえ、連携強化の指針を初めて策定し、自治体に通知した。

 指針では、虐待・DVに対応する各担当は、情報の共有に加え、それぞれの機関の役割や支援内容を相互に理解することが重要と指摘。その上で、双方の担当が取り得る具体的な対応内容や注意点などを紹介した。

 調査は、同省の委託を受けた民間会社が2月にインターネットで実施。調査時点で全国に設置されていた215の児相、287のセンターが対象で、一部には電話などでヒアリングした。

 連携状況を尋ねた質問には、児相98施設(回答率45・5%)、センター173施設(同60・2%)が回答。センターとの連携数が0件だったとした児相は、全国で45施設。他は1~5件が17施設、11~25件が11施設、6~10件が10施設だった。一方、児相との連携が0件だったセンターは、59施設、1~5件としたのは42施設となっていた。

 連携の課題を複数回答で尋ねた質問では、児相、センターとも「保護する対象や介入・対応に関する考え方が異なる」とする回答が最多だった。このほか「どのタイミングで連携したらよいか分からない」「連携すべき事案かどうかの判断が難しい」なども多かった。



二つは同根

 東京通信大の才村純教授(児童福祉論)の話 かつてと比べれば連携は取れてきたが、まだ不十分だ。日常的に暴力が横行する家庭では、児童虐待だけではなく、配偶者へのDV被害も出やすい。二つの問題は同根との認識が、いまだに十分共有されていない。児童福祉司が虐待の背後のDV被害に着目できるよう、研修にDVに特化した科目を取り入れることなどが必要だ。あわせて、配偶者暴力相談支援センターの権限強化も進め、DV対応のより一層の充実を図るべきだ。


支援や介入 見解の相違も

 児童相談所と配偶者暴力相談支援センターに対する厚生労働省の調査では、児童虐待とDVに関する情報共有が被害者支援の強化につながった事例を複数挙げた。一方で、支援や介入についての見解の違いが障壁となっているとする現場の声も紹介している。

 連携できたとする児相からの事例報告によると、匿名で夫からのDV被害と子どもへの心理的虐待の相談を受けたが、その場でのDV相談にはつながらなかった。だがリスクが高い場合を想定し、匿名の段階でDV担当者と情報共有。そのため後日、母親から相談があった際、その日のうちに母子を保護できた。

 また、あるセンターからの事例報告では、保育園の通告で父親の虐待をつかんだ児相が、母親との面接を繰り返す中でDV被害も把握。子どもが幼いなどの理由でセンターを訪問できない母親のため両機関が近くの役所で面接し、母子を一時保護所に避難させることができた、としている。

 連携の難しさでは「支援対象に介入する児相と、DV被害者の相談を待つセンターでは対応に温度差がある」(児相)、「保護や支援の考え方が異なり、情報提供が一方通行になる場合がある」(センター)などの意見が報告されていた。

 今後の連携対応に向けては「関係機関が連携できるようそれぞれの法律の整合を取るなどの法整備が必要」(児相)、「児童虐待も絡んでいるか否かの判断が難しい。児相への情報提供についてシステム化できるといい」(センター)などとする提言も寄せられた。


ズーム

 児童虐待 全国の児童相談所が2018年度に相談・通告を受けた児童虐待件数は約16万件に上り、増加傾向が続く。子どもの前で配偶者に暴力を振るう面前DVや暴言などの心理的虐待が全体の半数超。子どもへの体罰禁止やDV対応機関との連携強化を盛り込んだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が昨年6月に成立、一部を除き今年4月に施行された。


 DV 配偶者や恋人から振るわれる暴力。身体的な暴行のほか、心理的な攻撃や生活費を渡さない経済的圧迫などがある。内閣府によると、2018年度に配偶者暴力相談支援センターで受理したDV件数は11万4481件で過去最多となった。DV防止法は01年に施行され、19年の改正で配偶者暴力相談支援センターと児童相談所との連携強化が盛り込まれた。

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