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コロナに揺らぐ日常再考 (3) 働く 時給1000円で腹くくる

/掲載日:2020年07月31日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:20ページ/

いつも満員だった朝の通勤電車は、4月の緊急事態宣言発令後はがらがらに。「即座に身の安全を確保できる人が、それだけいたんやな…」。神戸市の障害者支援施設で働く女性(44)は、空席の目立つ車内に複雑な思いを抱いたという。

 この間、平日はほぼ休みなく出勤した。「自分や家族が感染するのも、施設の利用者が感染するのも怖かった。リスクがあっても時給千円。それでこき使われるんです」

 勤務先には約40人の知的障害者が通い、共同で軽作業をしている。閉めるわけにはいかない。利用者は大半が中高年で、親はさらに高齢だ。閉めてしまうと彼らが孤立しかねない。「この施設が彼らには唯一の社会との接点で、唯一の居場所だってことがコロナを通じて見えてきた」

 高校生と中学生の娘がいるシングルマザー。生命保険会社の仕事を心身の不調で退職後は、正規の仕事は見つからなかった。現在の月収は手取り約16万円。祝日の多い5月は11万円ほどに落ち込んだ。「この貧困からどう抜け出そうかと思っても、逃げ道はない」。腹をくくるしかなかった。

 自分と同じように休めずに働く人が、違って見えるようになった。「スーパーで働く人の格好よさに気付かされた。大変そうやけど替えの利く仕事だと、今までどこかで思っていた。世界に対して目が開かれた気がします」

 スーパーの店員やごみ清掃員、保育士、医療従事者…。緊急事態下でも休めない人びとはエッセンシャルワーカー(欠かせない労働者)と呼ばれた。同志社大大学院教授(フェミニズム理論)の岡野八代さんは「経済活動が止まったことで、資本主義社会の形成以前から不可欠だったケア関連の仕事の担い手に光が当たった」と指摘する。

 資本主義の論理では評価されにくいそうした仕事は、女性や社会的立場の弱い人びとに有償、無償を問わず押し付けられてきた。「社会に依存している自分が、その社会を支える人をいかに見てこなかったのか、反省させられた」と岡野さん。

 「私たちの生活には、商品化になじまない仕事がたくさんある。そうした仕事をうまく分担し、責任を分け合わないとこの社会は持たない。価値観の転換が必要です」 (森原龍介共同通信記者)

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