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コロナに揺らぐ日常再考 (4) 担う 不安 でも無力じゃない

/掲載日:2020年08月16日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:22ページ/  

 夜中に目覚めてぞっとした。喉が痛い。感染していて小学生の息子にうつしたらどうしよう。気管支が弱いのに…。不安で涙ぐみ、何度も手を洗う。健康に自信がある人がうらやましく、そうでない自分がみじめだった。緊急事態宣言が出ていた4月、記者の精神状態は最悪だった。

 「罹患りかんしたら? 仕事は? 私も不安と恐怖しかなかった。家族はオーストラリアにいて、私は東京に一人。このまま息子や夫に二度と会えないんじゃないかと考えました」とエッセイストの小島慶子さんは明かす。

 孤独死すら頭をよぎった夜、小島さんはタワーマンションの窓明かりを見て思ったという。「あそこに住む人はきっと資産が何十億円もあって今の危機もなんてことない。ファミリーで『コロナ、早く終わればいいね~』とでも言っているんだ」

 不安な人は周囲と自分を比べ始める。「あの人は正社員だから」「お金持ちだから」。友人とも話しづらく、孤独が募る。だがある時、小島さんは気付いた。「今できることは『どうにもできないこと』を気に病むのをやめること」。目の前の仕事や家事に集中し、現実の生活を取り戻した。

 ニューヨークやバルセロナの友人たち、特に育児中のシングルマザーはさらに厳しい状況だった。「最も打撃を受けるのは弱い立場の女性だ」。そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。「できることがあるなら、やろう」。仲間と手弁当で、コロナ危機で困窮する母子世帯への支援活動「ひとりじゃないよプロジェクト」を立ち上げ、大きな反響を得た。

 ずっと誰かに助けてもらいたかった。でも自分ができることを担った時、景色の見え方が変わり始めたという。「こんな自分の日常が他の人の役に立つ。無力じゃないと思えた」。老い、病、貧困…。日々つきまとう不安の中で、誰かのために何かを担う。それが自分にも、一歩踏み出す力になるのではないか―。

 最近、昔話の「かさこ地蔵」のことを考えるんです、と小島さん。雪の中、吹きさらしの地蔵にかさをかぶせてあげた貧しい老人。すると夜、恩返しの餅が家に届く。「ささやかでも役に立てていると思いながら、眠りに就く幸せ。お餅は、その自己効力感の象徴かもしれないって思うんです」 (中井陽共同通信記者)

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