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社説 待機児ゼロ先送り 安心な受け皿整備を急げ

/掲載日:2020年09月09日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:2ページ/

 

誰もが安心して子どもを預け、育児と仕事を両立できる環境はいつ整うのか。厚生労働省は、希望しても認可保育所などに入れない待機児童が今年4月1日時点で約1万2千人だったと発表した。3年連続で減少したものの、年度末までにゼロにするとの目標達成は極めて難しい。

 「待機児童ゼロ」は第2次安倍政権が子育て分野で最初に掲げた目玉政策である。2013年、17年度末までに解消させる計画を打ち出したが保育所不足などから達成のめどが立たず、20年度末まで先延ばしした経緯がある。さらなる先送りに子育て世代の失望は大きいはずだ。

 子どもの人口の増加には地域差があるため、一律に待機児童をなくすのは難しい側面がある。だが国や自治体は必要とする全ての人に保育を提供する覚悟を持ち、各地域の実情に応じた対策を講じなければならない。

 4月までの1年間で全国の保育の受け皿は約8万人分増え、待機児童が100人以上いる自治体数もほぼ半減した。4番目に多い259人を残す岡山市も昨年からは90人以上減らしており、各市町村の取り組みは効果が出ているといえよう。

 ただ、特定の園のみを希望しているといった理由で集計から外された「隠れ待機児童」は約7万5千人に上り、今回の待機児童数が実態を反映しているとは言えない。国は25~44歳の女性の就業率が8割に達すると見越して施設を整備してきたが、特に都市部での保育需要の増加は想定を超え、利用希望者を吸収しきれていないのが現状だ。

 全国の市町村が策定した子育て支援計画では、21~24年度に新たに計10万人超分が必要となる見込みで、厚労省は年末までにまとめる次の計画に反映させる。昨年10月に始まった幼児教育・保育無償化の影響によって保育ニーズは一層高まると予想され、動向を的確に把握することが大切になる。

 もっとも、施設を増やしても保育士がいなくては子どもを受け入れられない。人材確保は最大の課題である。

 新型コロナウイルスの流行では保育サービスの重要性が再認識された一方、感染予防策で保育者の負担が増すなど職場環境の厳しさがあらためて浮き彫りとなった。感染への不安から離職者が出たケースもあり、保育士不足が深刻化する懸念がある。

 保育士が不足する要因の一つは低賃金といわれ、昨年の厚労省調査によると平均給与は全産業平均に比べ月額約9万円低かった。業務負担に見合った給与への引き上げや、保育士1人がみる子どもの数の見直しなど、これまでも指摘されている待遇改善をさらに急ぐべきだ。

 ゼロ達成は次期政権でも重要な目標であることに変わりはない。受け皿整備とともに、コロナ時代に合った着実な質の確保も求められる。

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