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新・地域考 オピニオン 岡山県内 高止まりの待機児童 「保育士が足りない」 市町村腐心 待遇改善や負担軽減/県 人材発掘、離職防止で支援/柏まり岡山県立大教授に聞く キャリアアップの選択肢増を

/掲載日:2020年11月08日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:4ページ/

「保育士があと5人いれば定員いっぱいまで入園者を受け入れられるのに」

 福田保育園(岡山市南区妹尾)の同前隆志園長(61)はため息をつく。園の定員は200人。ところが、保育士が足りず、実際には約160人しか受け入れられていない。

 努力はしている。2016年から通年採用を導入。同じ社会福祉法人が運営する2園と合同で見学会や相談会を開くなど、スケールメリットを生かしたアピールもしている。それでも必要な人数は確保できない。

 他の園も事情は似たり寄ったりだ。岡山県内では保育士不足から、定員を割り込む保育施設が相次いでいる。

 岡山市内では本年度、183の認可保育施設の36%に当たる67施設が定員を下回る受け入れしかできなかった。宙に浮いた定員は合計827人。定員割れ施設の割合は18年度21%、19年度34%と年々増え、深刻さを増している。

 

「潜在」復帰

 自治体などが期待をかけるのが、資格を持っていながら保育の現場を離れている「潜在保育士」だ。

 岡山市は14年度から、潜在保育士が復帰する際の不安を解消するため、保育園や認定こども園で体験型の研修会を開催してきた。これまでに78人が参加し、37人の就職につながった。

 ただ、最近は就職に至る割合が低下し、参加者も減ってきた。本年度最初となる10月29日の研修会に参加したのは1人だけ。市内のある保育関係者からも「働く意欲のある人材はほとんど残っていない」との声が漏れる。

 このため、各市町村は新卒者にアピールするための待遇改善にも力を入れる。岡山市は17年度から給与に市独自で2%を上乗せし、本年度は3%(月額9千円程度)に引き上げた。倉敷市も月5千円、総社市は年2万円、早島町は年6万円…。ここ数年で待機児童の発生した自治体は相次いで保育士の給与を手厚くしてきた。

 このほか、岡山、倉敷市は宿舎の借り上げ支援、岡山、真庭市は奨学金の返済支援の助成もしている。

 19年度で施設整備を一段落させた岡山市は「あとは人材確保が待機児童ゼロの実現を左右する」(保育・幼児教育課)とみる。市によると、保育士の待遇改善もあって、ここ数年は年間170人ペースで新たな人材を獲得した。それでも待機児童解消には、さらに200人程度が必要という。

心のケア

 せっかく就職した保育士の離職防止にも手を打つ。

 岡山市は17年度から、保育士の負担軽減のために支援員を雇用した保育施設への補助を始めた。19年度は私立園の2割に当たる21園が利用している。

 こじかこども園(同市北区大供本町)では、支援員1人と、独自雇用の補助員2人で保育士17人をサポート。給食の配膳や新型コロナウイルス対策の消毒を任せたところ、平均で月10時間ほどだった保育士の残業がほぼなくなったという。

 宮川洋子園長(55)は「保育の質の鍵を握るのは優秀な人材。負担軽減で人材定着を図りたい」と力を込める。

 心のケアに乗り出した自治体もある。倉敷市は15年度から研修会を年に20回程度開催し、悩み事も話し合っている。「離職防止につながっている」と同市保育・幼稚園課。岡山市も本年度、園長OB2人が常駐する「保育士・保育所支援センター」で悩み相談業務を本格化させた。

 同市私立認可保育園・認定こども園園長会の高山学会長(63)は「保育士の確保は地道にやっていくしかない。今後は県外に進学した学生にもUターン就職を呼び掛けるなどあらゆる手を尽くしてほしい」と訴える。(伊丹友香)


県 人材発掘、離職防止で支援

 岡山県内の待機児童(4月時点)は403人で、前年同期より177人減った。3年連続で改善したものの、全国では9番目に多く、高止まりが続く。県も待機児童対策を重要課題と位置付け、潜在保育士の掘り起こしを軸に人材確保で市町村を支援している。

 4月時点で待機児童がいるのは8市町村。岡山市の259人と倉敷市98人で全体の88・6%を占める。備前市18人、早島町13人、玉野市8人などと続く。

 待機児童は国が2015年度に保護者が求職中の場合も数えるようにしたため増加し、16年度には岡山市が第3希望までの園に入れなかった場合も含めるよう独自に定義を見直したことで急増。17年度には1048人となった。各自治体は保育施設の整備を進めたが、昨年10月からの幼児教育・保育の無償化もあって20年度の利用申込者数は過去最多の4万8943人。右肩上がりが続く。

 県は子育て支援施策の指針「第5次岡山いきいき子どもプラン」(20~24年度)で、新たに待機児童解消を重点施策の柱に掲げた。「県保育士・保育所支援センター」(17年度開設)を核に、潜在保育士の掘り起こしと離職防止に当たる。センターにはコーディネーター2人が常駐。勤務条件に沿った就職先を紹介している。今年10月には求職者が求人情報を検索できるオンラインマッチングシステムを導入した。

 開設以来、10月末までに186人がセンターを通じて就職。同プランでは、24年度末までの就職者数を520人とする目標を掲げている。

 県子ども未来課は「待機児童の解消は、安心して子育てできる環境作りに欠かせない。少子化問題の解決のためにも市町村と協力して早急に実現したい」としている。 (舟越俊司)


柏まり岡山県立大教授に聞く キャリアアップの選択肢増を

 岡山県立大保健福祉学部の柏まり教授(幼児教育学)に保育士確保の現状や課題を聞いた。(伊丹友香)

 ―県内の保育士の待遇や職場環境は。

 待遇は随分と改善されてきた。賃金面では私立園も公立園と遜色ない初任給、手当を出すようになった。保育士は熱心であればあるほど、勤務時間が長くなる傾向があったが、働き方改革で保育現場も変わってきた。職場環境の改善に乗り出す私立園が増えてきた一方で取り組みが進んでいない園もあり、格差が拡大してきているように思う。

 ―首都圏や関西圏などからの保育士の求人が増えていると聞く。

 県外への就職希望がさほど多いとは感じない。指導する学生では20人のうち年に1人いるかどうかだ。

 ―保育士不足の解消に向けて離職防止や復職支援が求められている。

 若い保育士の離職の一因に理想と現実のギャップがある。養成校ではギャップを埋めようと、先輩の声を聞くといった取り組みを始めた。潜在保育士の発掘では、「仕事が大変」という以前のマイナスイメージが妨げになっている。今はワークライフバランス(仕事と生活の両立)が広がってきたと行政も園も情報発信する必要がある。

 ―新型コロナウイルスを受けた緊急事態宣言が出ても保育施設は休園しなかった。

 社会生活を維持するため、保育施設や保育士が必要だと示したのではないか。保育士は2003年に国家資格となり、生涯を通じてキャリアを高めていける職業になった。ライフステージに応じ、時短など柔軟な働き方に対応し、研修を行ったり役職を設けたりするなどキャリアアップの選択肢を増やすことが大切だ。保育士不足を解消するためにも役立つはずだ。


ズーム

 待機児童 親が働いているといった条件を満たしながらも、定員超過などで認可保育施設に入れない子どもを指す。政府は2020年度末までにゼロにする目標を掲げていたが、全国の待機児童は20年4月時点で1万2439人。達成を事実上断念し、年内に新たなプランを取りまとめる方針。

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