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「見るだけ」で暗記 岡山大発の画期的ドリル 大学院・寺澤教授が開発 ビッグデータ活用 記憶のメカニズム実用化

/掲載日:2021年03月12日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:21ページ/  


 コロナ禍で、子どもたちの学びも変わりつつある。昨春の臨時休校を機に、学校現場ではオンライン学習に備えた高速通信環境の整備が急速に進み、授業でのインターネット利用も広がる。そんな中、岡山大発の学習ドリルが、デジタル化時代の新たな教材として注目を集めている。 (金原正朗)



 「マイクロステップ・スタディ」は画面に出てくる英単語や漢字を、繰り返し見るだけで、無理に覚えようとしなくても記憶として定着させるという画期的な教材。同大大学院の寺澤孝文教授=認知心理学=が、研究する記憶のメカニズムを実用化した。

 例えば英単語なら、アルファベットのつづり「accurate」を数秒見た後、「正確な、間違いのない」と日本語の意味を確認。続いて自分の理解度を「全くだめ」「だめ」「もう少し」「良い」から選び、次の単語へ進む。

 教材を導入する岡山大付属中(岡山市)の2年生の教室を訪ねた。生徒は専用端末を見ながら次々に暗記に取り組む。1問に10秒もかからず1回の学習は10分足らず。「いつの間にか覚えている感覚。すぐ終わるからストレスも感じない」と鎌田果歩さん(14)。



 開発のきっかけは、20年以上前に取り組んだ知識の持続性を調べる実験だった。記憶には忘れやすいものと、知識として長期に残るタイプがある。例えば“一夜漬け”学習で詰め込んだ内容は、直後のテストを乗り切っても数日で忘れてしまうことが多いという。一方で母国語や社会常識は意識しなくとも自然に頭に浮かぶ。

 なぜ記憶が残るのか、そのメカニズムはよく分かっていなかった。しかし、学生らに参加してもらった実験を通して、短時間目を通しただけの文字列などが、正確ではないが数カ月後も記憶として残っていることが分かった。さらに研究を続けると、すり込むように繰り返し見ることでその記憶が知識として定着し、「覚えよう」という意識もあまり必要ないことが確認できた。寺澤教授は「この仕組みを暗記学習に応用できるのでは」と考え、1996年に開発に着手した。

 同じ情報をどれくらいの間隔で、何回見れば定着するのかを追求し、出題スケジュールを管理するシステムを作り、特許を取得。プリント教材や携帯ゲーム機のソフトとして試行錯誤していたが、インターネットを介したe―ラーニング化によって、利用者と通信できるようになり、進化が加速した。

 学習を通して1問ごとの理解度、学習履歴などを岡山大実践データサイエンスセンターが収集。1人につき年10万件以上ものビッグデータを分析し、習得した問題は出題から外す。寺澤教授は「高い精度で個人に合わせた学習を提供できる」と説明する。

 さらに特徴的なのが、利用者への「通信簿」。データ分析の結果を基に、学力や努力をグラフで可視化する。「データから、これまでの学校のテストでは分かりにくかった、ほんの少しの頑張りも評価でき、学習意欲の向上に役立つ」。長野県高森町との共同研究では、特に学力が低い子どもに効果があったという。

 学校のICT(情報通信技術)化が進む中、現場ではソフトが求められている。寺澤教授は「基礎的な知識習得をドリルが担うと、創造力や思考力を養う学びにより注力できる」と強調する。2019年には先進的な学習サービスを表彰する「日本e―Learningアワード」で、文部科学大臣賞を受賞した。

 教材には全国の自治体や学校、企業などから20件以上の問い合わせがある。「目指すのは一人一人に目を向けた、新しい時代の学習ツール。科目を増やすなどこれからも改良を重ね、子どもたちの学びを支えたい」

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