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自ら小麦を育て製粉 チャレンジし続ける「一文字うどん」

パンや麺、菓子など、私たちが日常的に食べている小麦製品。日本国内で消費される小麦の9割が輸入品であることを知っていますか?とはいえ、日本で小麦を育てることは可能で、岡山県内では代々受け継がれている固定種「しらさぎ小麦」が栽培されています。そこで、LaLa編集部では、しらさぎ小麦の栽培や製造販売に尽力するうどん店「備前福岡 一文字うどん」(瀬戸内市)を取材。3代目店主の大倉剛生さんに小麦栽培を始めた経緯や、自家製粉の小麦粉を使った“地うどん”のこだわりなどを聞きました。


3代目店主の大倉剛生さん(左)と、父親で先代の秀千代さん

*手塩にかけた小麦&小麦粉

「一文字うどん」は、大倉剛生さん(以下、剛生さん)の祖父が1983年、瀬戸内市長船町福岡地区に開業。大学時代まではプロのサッカー選手を目指し、サッカーに明け暮れていた剛生さんですが、父で2代目の秀千代さんの作業を手伝ううちに、仕事や地域活動に対する姿勢や情熱に感銘を受け、3代目として店を継承することを決意したそうです。

一文字うどんでは開業時から輸入小麦を使っていましたが、約25年前、秀千代さんが「うどんは日本の伝統食なのに、なぜ輸入小麦を使うのか」と疑問を抱き、県内産の固定種「しらさぎ小麦」の無農薬栽培を始めることに。さらに、製粉方法にもこだわり、一度に大量に製粉できる一般的なロール製粉ではなく、珍しいとされる石臼挽きにチャレンジ!最初は製粉状態が不安定で、うどんらしからぬ長さのうどんができてしまったりと試行錯誤の日々でしたが、剛生さんも加わり、父と子での製粉製麺の探求の結果、安定した製粉で多くの人に愛されるおいしいうどんにたどり着きました。

ちなみに、一般に流通している多くの小麦粉はロール式製粉機で1分間に200~500回転しながら製粉されていますが、一文字うどんの石臼挽きは1分間に16回転。小麦を丸ごとゆっくり丁寧に製粉するので、高温の摩擦熱よる酸化やタンパク質異形のリスクが少なく、胚乳、胚芽、表皮がバランス良く含まれており、小麦元来の栄養を保ちつつ、甘み、香り、うま味を堪能できます。

しらさぎ小麦の種は栽培開始当初、既に市場では探せないほど希少だったそうですが、現在、大倉さんが栽培するしらさぎ小麦の栽培面積は0.6ヘクタールへ。そして、地元農家の委託分(ふくほのか小麦を含む)と合わせると5ヘクタールにまで広がりました。また、石臼に使う石も、自然界の中で静かに変化してきた“生き物”だからこそ微妙な違いがあるようで、石臼メーカーの職人と細部に至るまでこだわった調整を定期的に続けているとのこと。独自のおいしい小麦粉を作りだせるのは、怠ることのない努力の証。大きな壁に阻まれても諦めず、時間をかけて丁寧に育てると、本来の良さが引きだされ、バランスが良くなる—。なんだか、子育てに通ずるものがありますよね。


    
*安心とおいしさを追求

今ではしらさぎ小麦の他、「ふくほのか小麦」も扱い、100%地元産の小麦でうどんを作っています。石臼挽きの小麦粉は真っ白ではなく、健康的な小麦色。「小麦粉は無味無臭ではなく、小麦本来の味や香りがあるんだ!!!」という感動も味わえるうどんです。また、小麦との二毛作で米も無農薬栽培しており、店内で、ばら寿司の元祖とも呼ばれる郷土料理「どどめせ」(税抜550円)やおむすび(税抜120円)として食べることができます。

小麦を無農薬栽培するにあたり、約20年にわたって合鴨農法で米作りをしているのですが、BSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)問題をきっかけにおいしくて安全な食肉を追求する必要性を感じ、田んぼ仕事を引退した鴨の命を感謝していただく「鴨メニュー」をスタート。合鴨を地元産の米、麦、大豆、ヒエ、キビを中心とした自家配合飼料で育てるなど餌にもこだわっているからこそ、「鴨肉は臭みがなく、脂身にもうま味があり、おいしい」と評判です。今では「五穀鴨」として商標登録され、一文字うどんと数少ないレストランでしか味わえない貴重な肉なんですよ。


   
小麦を丸ごと見て、触れ、そして自ら石臼挽きで小麦粉にし、うどんを作る「しらさぎ小麦の石臼挽き体験&手打ちうどん教室」も行っています。小麦の栽培風景や鴨飼育場の見学などのチャンスもあります。ぜひ、直接問い合わせてみてください。

*時代と食をつなぐ

中世の商都として栄えた備前福岡の地にある一文字うどんは、セルフうどん店にとどまらず、毎月第4日曜日に開催される定期朝市「備前福岡の市」(次回は7月26日開催予定/詳細はFacebookにて要確認)に出店し、食文化の発信に貢献しています。かつて「中世福岡の市」という名で開かれ、国宝の「一遍上人(いっぺんしょうにん)絵伝」に描かれるほどにぎわっていた“中世のマルシェ”がこうして今によみがえるなんて、まるで時空を旅するようでワクワクしますよね♪地域の歴史とマンパワーをつなぎ、食や地域の経済活動の循環を担っているところも他にはない魅力でしょう。


「みんなの日常にそっと存在できる一文字うどんでありたい。そのために自分が何を感じ取り、何に取り組めるのかをその時々で考えていきたい」。そう展望を語る剛生さんからは周りを思いやる優しさを感じます。

第1波のコロナ禍ではスーパーなどで小麦粉や小麦製品の売り切れが続出しましたが、一文字うどんのオンラインショップから小麦粉やうどんの購入が可能です。乾麺をパスタとして料理するシェフもいるそうで、これは真似できそうですね。大変なときだからこそ大切な家族の身体を養うために、小麦の栄養があるおいしいうどんで心を休めたり、子どもとおやつ作りを楽しんだり…。しらさぎ小麦の育ちを語らいながら、そんな和やかなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。


 
■一文字うどん
三代目店主:大倉剛生
瀬戸内市長船町福岡1588-1
TEL 0869-26-2978/Fax 0869-26-8052
営業時間:10:00~15:00(金曜日・土日祝は19:00まで)
定休日: 水曜日、第1・3火曜日
Facebook:一文字うどん / 備前福岡の市 

◇しらさぎ小麦の石臼挽き体験&手打ちうどん教室◇ ※要事前予約
開催日時:毎月第1日曜日・毎月第2火曜日の9:30~11:30
場所:一文字うどん座敷、店頭(石臼挽き体験)
参加費:高校生以上2,500円、小中学生1,250円、同伴の子ども750円(いずれも税込)

【編集後記】
剛生さんへのインタビューで感じたのは、火花のように飛び散る情熱よりも、むしろ、真のある穏やかな情熱の方が持続可能で、寛容な変化をもたらすのではないかということ。今の時代、グローバルな視野も必要ですが、まずは私たちの郷土である岡山県の衣食住や自然環境について見聞を広め、自信を持って多言語でこの郷土について語れるようになることが、海外でのコミュニケーションで大切なのではないでしょうか。初夏には長船町福岡地区を黄金色に染める小麦の美しさ、そして、身近にこんなにもおいしい小麦があるということを子どもたちにも伝えていきたいと思う取材でした。(LaLa編集部・T)

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