日本人女性の11人に1人が乳がんにかかるとされています。ピンクリボン岡山は乳がんに関する正しい知識の普及と、乳がん検診の受診の推進活動を行っています。
乳がんは、女性にとって非常に身近ながん。適切な治療を受ければ克服できる可能性の高いがんでもあります。自分のため、そして家族のためにも、まずは乳がんについて正しく知るところから始めましょう。
◆運動の目的
乳がんについての正しい知識を多くの人に知ってもらい、乳がんによって引き起こされる悲しみから一人でも多くの人を守るための啓発運動です。
◆運動の始まり
ピンクリボン運動は、乳がんで亡くなったアメリカの患者が『このような悲劇が繰り返されないように』との願いを込めて作ったリボンからスタートしました。1980年代に始まり、行政、企業、市民団体などが、乳がんの早期発見を啓発するためのイベントを展開。またピンクリボンをあしらった商品を頒布し、その売り上げの一部を財団や研究団体に寄付するなど、積極的に取り組むことで市民や政府の意識を変えていきました。
◆運動の広がり
1990年代より、ピンクリボン運動は乳がん患者の多い欧米で急速な広がりを見せ始めました。アメリカでは、1993年にナショナル・マンモグラフィーデ―(10月第3週の金曜日)が制定されました。政府、関係学会、市民団体、企業が提携・協力することで、乳がんの早期発見の手段と重要性を国内に浸透させるための活動が拡大していきました。
ピンクリボン岡山は、NPO法人瀬戸内乳腺事業包括的支援機構が中心となり、岡山県内で乳がんの啓発・検診・診療活動に従事している機関の協力のもと、2015年より活動を開始しました。相談会や無料検診、チャリティーコンサートの開催など様々な取り組みを進めています。
毎年10月は「ピンクリボン月間」。全国各地で多くの取り組みが行われており、ピンクリボン岡山も、乳がんについての正しい知識を広めることと、乳がん検診受診率の向上を目的とした企画を行います。
※NPO法人 瀬戸内乳腺事業包括的支援機構とは
|
◆乳がん死亡者数の増加
乳がんとは、乳房内の乳腺組織から発生する悪性腫瘍(しゅよう)です。特徴として、初期のころは乳房内にとどまっていたがん細胞が、血液やリンパ液の流れに乗ってほかの臓器(リンパ節、骨、肺、肝臓など)に転移しやすいという性質があります。自覚症状としては、乳房にしこりや赤み、えくぼのようなくぼみができること、湿疹やただれができることなどが挙げられます。また乳頭から血の混じった分泌が出ることもあります。
乳がんの罹患(りかん)者数は、1975年以後一貫して増加傾向。2012年には年間に8万人以上の女性が乳がんにかかったとされています。女性の生涯乳がん罹患リスクは約9%。女性の11人に1人が乳がんを罹患するといわれています。
また乳がんによる死亡者数も、1958年以後増加傾向があります。2015年には年間におよそ1万3千人の女性が乳がんで死亡したとされています。女性の生涯乳がん死亡リスクは約1%。女性の約70人に1人が乳がんで死亡するとされています。
◆早期発見が重要
乳がんは女性にとって最もかかりやすいがん。2012年の女性の部位別がん罹患率(1年間に人口10万人あたり何人がんと診断されているか)を見ると、乳房に罹患している人が最多です。
2015年の女性の部位別のがん死亡率(1年間に人口10万人あたり何人がんで死亡するか)では、乳がんは女性がん死亡原因の第5位。しかしこれも年代別で見ると、20歳~59歳では乳がんで亡くなる人が最も多くなっています。
乳がんの罹患率は40代になると増加し始め、40代後半にピークとなります。閉経期を迎える50代ではやや減少しますが、60代で再び増加。その後はなだらかに減少します。
乳がんは早期発見が何よりも大切。発見時のがんが小さく、また乳房内に病変が留まっている状態で適切な治療を受けられれば良好な経過が期待できます。乳がんの進行程度は、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無で0期から4期まで分類されます。2期までなら5年生存率は約90%以上。しかし3期で約80%、4期で約50%と低下しますので、早期発見とそのための乳がん検診の定期的な受信が大切です。
乳がん全体の中で、遺伝性の乳がんの割合は約7~10%と考えられています。その原因遺伝子の約70%が「BRCA1」と「BRCA2」という遺伝子であることがわかっています。
生まれつきこれらの遺伝子に機能異常がある場合、70歳までに約70%の人が乳がんを発症します。またこれらの遺伝子変異がある場合は卵巣がんにもなりやすく、70歳までに約20~40%の人が卵巣がんを発症すると報告されています。このため、生まれつきBRCA1あるいはBRCA2遺伝子に変異のある場合、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」と診断されます。
がんは遺伝子が正常に働かなくなることで発生しますが、その原因はまだ完全には解明されていません。生活習慣や環境、遺伝などの複数の要因が積み重なって発症すると考えられています。
日本乳がん学会では、乳がんを予防する要因やリスクを高める要因に関するガイドラインを公表しています。個人でできる乳がん予防の取り組みとしては、アルコール摂取を控え、肥満を避けるために体重を管理し、運動を心がけることが大切です。
乳がん検診方法としては、主に次のものがあります。
問診
生活習慣や家族歴などを問診用紙に記入します。
視触診
乳房の形や左右差、皮膚の変化を調べます。次に指で乳房やわきの下に触れて、しこりがないかを調べます。
マンモグラフィー
乳房を圧迫板で挟んで引き伸ばし、X線撮影で乳房内を調べます。視触診では触れることのできない乳がんも発見できる場合があります。X線の量はわずかなので、被曝(ひばく)による影響はほとんどないと考えられています。乳房を圧迫板で挟む際に痛みを感じることがありますが、痛みのレベルには個人差があります。
超音波検査
超音波を出す器具を直接乳房にあてて、映し出された画像を見て乳房内を調べます。超音波検査は被曝の心配がありません。ベッドに仰向けに寝て受ける検査で、痛みもありません。
* … * … * … * …* … * … * … * …* … * … * … * … * …
住民健診
●市区町村が住民を対象に行っている健康診断です。
●対象年齢や検診間隔、方法や施設は市区町村の取り決めに従い実施されます。
●市区町村が費用の一部を補助してくれます。
●詳細は市区町村の広報誌、ホームページ、役所窓口に問い合わせて確認してください。
職場健診
●勤務先の健康保険組合や事業所で行っている健康診断です。社員の妻が対象になる主婦検診もあります。
●対象年齢や検査内容は健康保険組合や事業所により異なります。
●指定された期間に、指定された施設で実施します。
●費用の一部を補助してくれます。
●詳細は健康保険組合や事業所にお問い合わせください。
個人健診
●自分で施設や検診内容などを自由に選んで受診する健康診断です。
●検診には健康保険が使えないので、費用は全額自己負担です。施設により費用は異なります。
●検診を実施しているか事前に確認してください。
【解説】日本では40代から乳がん罹患率が上昇します。また、40歳以上の女性を対象としたマンモグラフィー検診により、死亡率低減効果が証明されています。20代、30代の人は、検診方法に関して、施設担当者と相談して決めましょう。
【解説】現在、一般的な乳がん検診方法として「視触診」、「マンモグラフィー」、「超音波検査」などがあり、それぞれ次のような特徴があります。
視触診
●痛みがなく、安価で簡便ですが、乳がん死亡率の低減効果は証明されていません。
●各指針でも視触診単独による検診は勧められていません。
マンモグラフィー
●40歳以上に対するマンモグラフィー検診は脂肪率低減効果が示されています。
●厚生労働省は2004年に40歳以上の女性に対する乳がん検診として、マンモグラフィー検診を実施するよう自治体に通達しています。
●このため、政策検診としてはマンモグラフィー検診が広く行われています。
超音波検査
●痛みがなく、比較的簡便ですが乳がん死亡率の低減効果は証明されていません。
●乳腺濃度が高い女性の場合、マンモグラフィーでは乳がん検出能(乳がんを発見する能力)が劣るため、40代罹患率が高い日本ではどのような検診を行うべきか課題になっています。最近の研究では、40代女性に対してはマンモグラフィー検診に超音波検査を併用することで乳がんの発見率が向上するといわれています。
●住民健診で、超音波検査を取り入れている市区町村は少ないため、職場健診や個人健診で選択するのが良いでしょう。
【解説】マンモグラフィー検診の場合、要精密検査と判定される人は約5%いますが、最終的に乳がんと診断される人はそのうちの約0.2%程度です。要精密検査と判定された人が、全て乳がんというわけではありません。落ち着いて、精密検査の受けられる医療機関を受診してください。
【解説】過去に行われた臨床研究の多くで、2年ごとのマンモグラフィー検診の有効性が示されています。2年よりも短い間隔で検診を受けた方が良いかは、研究が少なくまだわかっていません。検診と検診の間に乳がんが発見される場合があり、中間期乳がんと呼ばれています。中間期乳がんは、比較的進行の早い乳がんが多い、40代の若年に多いなどの特徴があるとされています。したがって、40代の女性は、2年より短い間隔で検診を受けた方が良いかもしれません。また、普段から自己検診を心がけ、異常を感じたらすぐ医療機関を受診してください。
【解説】乳腺濃度は年齢とともに、また出産や授乳によっても低下します。乳腺濃度はマンモグラフィー検診での乳がん検出能に影響し、乳腺濃度が高い場合には、マンモグラフィーのみでは乳がんの発見が困難なことがあります。科学的な根拠はまだ示されていませんが、高濃度乳腺の女性は超音波検査など他の検診方法を併用するのが良いとされています。
【解説】乳房が圧迫板で挟んで引き延ばす際に、痛みや不快感を感じる場合があります。またわずかな線量の被曝がありますが、マンモグラフィー検診を受けることによってがんの発生が増加したなどの報告はなく、長期的な発がんへの影響はほとんどないとされています。ただ被曝の影響は年が若いほど大きいので、20代の女性などは不必要なマンモグラフィー検診は避けてください。また、検診で要精査の結果を受け取った場合、心理的な恐怖心が長期間続くとの報告もあるため、心理的な負担は皆無ではありません。
岡山県医師会 理事 神崎皮膚科 院長 神﨑 寛子
岡山大学病院 乳腺・内分泌外科 教授 土井原 博義