[歯科医師ママの健康教室] 授乳・食事・発音に影響する[舌小帯短縮症]（0歳～５歳）

舌小帯とは、舌の裏側にあるヒダやスジ状の組織です。このヒダやスジが生まれつき短かったり、ヒダが舌の先端に近いところについているため、舌の動きが制限される状態を舌小帯短縮症といいます。

重症度によって、哺乳、咀嚼・嚥下（えんげ）、発音、呼吸、に支障を来すことのある疾患です。

舌小帯短縮症によって起こる問題

母乳をうまく飲めず、授乳に時間がかかる

寝相が悪い、寝つきが悪い、眠りが浅い
声が小さい、発音が難しい

舌小帯短縮症をめぐる論争

　20年前まで日本小児科学会新生児委員会が小帯切除に否定的な立場をとり、アメリカの権威ある小児科学の教科書でも舌小帯切開は不要と記載されていました。

　2000年代に入って、舌小帯切開術は哺乳障害を改善する可能性がある。という研究論文が数多く発表されるようになり、2017年に米国小児科学会が舌小帯の切開が授乳、哺乳量を改善する可能性について言及しました。そのような中で、日本歯科医学会が2018年5月に舌小帯短縮症に対する治療指針を打ち出しました。

現在は小児科医学会と歯科医学会が相反する治療指針を表明しているため、歯科健診で切開が必要と判断された舌小帯患者が、小児科を受診すると「手術は必要ない」と言われてしまうといった混乱も起きています。

　小児科、小児歯科の中でも、重症度をきちんと評価した上で必要なお子さんに適切な治療を提供する病院はまだ少ない現状ですが、欧米同様の治療が日本全国で受けられるよう尽力されています。

舌小帯短縮症の重症度

　舌小帯の短縮の程度は舌の先をどの程度あげられるかによって、軽度・中等度・重度に分けられます。実際に治療を行う際には、詳しい検査と評価を行い重症度に応じて必要な機能訓練トレーニングや、手術などを選択して行いますが、今回は簡単な判定方法を１つご紹介します。

まず、お口を大きく開け、舌の先を上あごにつけます。

軽度

お口の大きさ（たての長さ）の１／２以上あげられる場合。

中等度

１／２以下しかあがらない場合。舌を前に出した時に先がハート型にくびれます。

重度

舌を上にあげようとしても下顎の歯よりもあがらないか、全くあげられない場合。

舌小帯が舌の裏に隠れてよく見えない場合もあります。

舌小帯短縮の程度が軽度の場合は、発音や摂食嚥下機能に問題が少なく、治療の対象とならない場合が多いです。

中等度や重度の場合は、「哺乳が上手にできない」、「話すときに舌がもつれる」、「硬いものが上手に食べれない」といった問題を抱えることが多く、治療によって改善することがあります。

舌小帯短縮症の治療

　舌小帯短縮症に対する治療には、機能訓練トレーニングと手術があります。舌小帯短縮の程度によっては舌を動かすトレーニングを行うだけで症状が軽減される場合もあります。トレーニングだけでは改善が難しいと判断された場合には、舌小帯のヒダを切る手術を行います。術後は、瘢痕収縮の防止や、動きやすくなった舌を上手に使いこなせるようにするために、機能訓練を行います。